7年ごしのバイク復帰 わたしとトライデント 1/3

#MotoAndAuto

わたしとバイクの物語

前にクルマのRX-8の話をしたけれど、バイクのほうの話はもっと語り尽くせないものになる。

私とバイクの出会いは17のとき、クルマの免許を少しでも早く取りたくて、免除目当てでバイク免許を取りにいったのが始まり。 それでバイクにハマッてしまって、結局バイクにのめり込んで、クルマの免許は取らなかった。

私は、体があまり自由に動かない。 人は体を動かすのにどうやって動かすかを意識しないって言うけれど、私は結構意識しないとうまく動かない。 普通の人でも速く走ろうとしたら足の上げ下げを意識しないといけないと思うんだけど、それが常時必要って感じかな。

だから「自分の体だって自由にならない」という気持ちが強かったんだけど、バイクに乗り始めたとき、何も考えなくても思い通りに動くことに感動した。 自分の体は自由にならなくても、バイクなら思い通りに動かせる。 だから、バイクは私の「本当の体」だった。

当然、毎日たくさん走ったし、いろんなところに行き、いろんな挑戦もした。 困難なものや危険度の高いものも多かったし、バイクと共に行きて命を燃やした。 そこに語りきれないくらいの物語があった。

MT-09との日々

10年くらいバイクに乗れない日々を経て、私はヤマハのMT-09でバイクに復帰した。

MT-09

RN34J MT-09。 110psを発揮する新開発の846ccの3気筒エンジンを、新しいアルミフレームに載せて、装備重量は188kg、というとんでもないバイクだった。

バイク知らない人には全然伝わらないと思うから説明するね。

バイクではエンジンの存在が全体を支配するので、どういうエンジンを積んでるかはバイクのありとあらゆる部分に作用してくる。 一般的なエンジンは並列4気筒、並列2気筒、単気筒というもの。「気筒」はエンジンの燃焼室の数で、まぁエンジンの中に入ってる注射器みたいな形したものがいくつあるかってイメージでいいと思う。 基本的に少ないとゴリゴリした感じになって、多いとスムーズになる。どっこんどっこん言ってるハーレーはV型2気筒。

3気筒っていうのは結構レアで、クルマだと軽自動車やコンパクトカーが3気筒を採用したりするんだけど、これは単純に4気筒よりコストが安い理由で採用された安物扱いされがち。 対してバイクの3気筒は2気筒と4気筒のいいとこどり、というふうに捉えられやすい。

2気筒だとドコドコもしくはトコトコする感じで、加速時の蹴り出しが力強くて路面をしっかり捉える一方、スムーズさにかけるからギクシャクしやすい。4気筒はスムーズで扱いやすいけど、一方で力強さが足りず、路面を捉えにくい、みたいな雑に言うとそういう感じなんだけど、3気筒だと「スムーズだけど力強い」みたいないいとこどりになる。 って言われてるけど、採用例はとても少ない。 長年採用し続けているのがイギリスのバイクメーカー「トライアンフ」で、3気筒と言えばみたいになってたんだけど、ヤマハが3気筒のバイクを出したぞっていうのでも話題になった。

110psっていうのはパワーだけど、これは「結構あるほう」くらい。 そのまんまレースに使うようなものすごく速いバイクだと200ps近くあったりするけど、日本では長く750cc超のバイク(つまり日本での最大枠)は100psまでという規制があったし、「めっちゃあるわけじゃないけど、結構ある」くらいの塩梅。 バイクは軽いから、そこそこのスポーツバイクでもスーパーカーなんて敵じゃないくらいの加速力があるので、あんまりパワーがなくても使うところなんてどこにもないっていうレベルの速さなのね。本当に速いバイクだと停止状態から100km/hまで2秒を切るし、大型スポーツバイクならだいたい3秒前後は当たり前(MT-09も2.8秒)だし。 だから、「公道で普通に乗るのに合わせたパワー」……と言いたいところだけど、110psも使う機会は、絶対ない。 けどまぁ、あまりにも先鋭化していくスポーツバイクの中で、公道を楽しく乗ることにフォーカスしたバイク、って感じ。

装備重量188kgだけど、異常なくらい軽い。 400ccの名作バイク、CB400SFが191kgで、「400cc(普通二輪)より軽い900cc(大型二輪)」という軽さだし、なんなら軽さ至上主義のスーパースポーツより軽い。 大型バイクなんて駐車場から出すだけで「あ゛ーーーーっ あ゛゛゛゛ーーーーーっ」てなるものだけど、これなら大型が扱える人ならさらっと出せる。大型の教習車(NC750Lが228kg、CB750が240kg)でもしっかり体重かけないと取り回せないけど、MT-09なら普通に腕で押して取り回せる。

ついでに、高価格化が進んで200万円に迫るのが当たり前になってきている大型バイクの中で、なんと89万円という安さ。 こちらも400ccのバイクより安いかもというレベル。

で、どうやって「公道での楽しさ」を実現するのか、ということに対するヤマハの答えは「超刺激的」!

扱いづらい、なんなら危険なくらい敏感なエンジンとハンドリング、ドリフトやウィリーみたいなエクストリームスポーツ適性もある過激さ、というとんでもないバイクに仕上げてきた。 ヤマハは優等生的でおとなしいイメージだったのに、急にどうしたのって感じ。 ちなみに、やりすぎたみたいで、MT-09も年々大人しくなっていった。

で、そんなMT-09だけど、実は私は仲良くなれなかった人生初めてのバイクだった。 私にとっては初めての3気筒、初めてのヤマハだったから、そこらへんなのかなとおもったけど、ヤマハに関してはYZF-R25やMT-07に乗ったら普通に思うままに走れたし、3気筒に関してもトライアンフのタイガーに乗ったら(フィーリングは合わなかったけど)普通に乗れたので、「MT-09とだけ仲良くなれない」だった。

仲良くなれないってどういうことかっていうと、感覚的なことだから難しいけど、バイクの操作に意識を払う必要があって、それでも思った通りの動きやラインにならなくて「ちょっとミスったな」みたいなことが多くて、「乗せられてる感」があった。 寝ないし曲がらないしって感じでもあるんだけど、別に寝かそうと思えば寝かすこと自体はできるし、曲げようと思えば曲げること自体はできるんだよね。ただ、それがちゃんと意思とリンクしていなくて、「そういうふうに曲がりたいんじゃないの!」ってなっちゃう。 ジムカーナの練習でもなんかすごいドタバタしてる感じがあったし、スパンと寝てくれないし、なんかうまくリンクしてない。 手放す直前は乗りまくって、ようやく仲良くなれたけども。

そして、MT-09はとにかく「乗れなかった」。

一番の要因は、駐車場。 駐車場がなくて、家からだいたい3kmくらい離れた場所にガレージを借りていたんだけど、山奥に住んでる私は当然山越えもしなきゃいけないし、バイク装備つけて3kmの山越えは本当に厳しい。 それに、バイクの乗り降りで往復2時間はかかるみたいな感じになるから、乗るためにはたっぷり時間を用意しておかなきゃいけなかった。

そこに仕事の苦節が重なって、まともに休む暇もないほど忙しくて、その状況だからお金もなくて、「バイクに乗る」ということ自体が難しく、「無理して維持だけして、動かなくならないように最低限乗る」程度だった。

「バイクに乗りたい」と思い続けて10年耐えた末の復帰なのに、3年間で10000km程度しか走らず、「あっても結局乗ってない」と手放すことになった。

もう戻れないかもしれない?

バイクを手放しても、バイクを好きな気持ちは変わらない。 いつも乗りたいとは思ってた。

けど、MT-09との生活がどうだったかって考えると、復帰できない。 時間もないし、お金にそんなに余裕があるわけでもない。 しかも、歳をとっていき、バイクに乗ってなくて、なんなら筋トレもしなくなってしまっているし、健康状態も悪化してる。バイクに乗るには悪い条件ばかりが追加されていった。

そうなってくると、バイクに戻れるビジョンが見えない。 体の状態はよくならないし、突然お金に余裕ができるわけもないし、仕事からも解放されるわけがない。 宝くじがあたったら戻れるかというと、問題は他にもあるから難しいなってなる。 何度も検討はするけど、結局数々の障壁を思うと「無理だな」ってなる。

この「無理だな」っていうのがなんとなくバイクを遠ざけて、「もうバイクに乗ることはないかもしれない」と思うようになった。 バイク雑誌を買わなくなり、新型バイクのニュースを見ることもなくなり、バイクレースも見なくなり、バイクでつながっていた人との交流もなくなった。

一方で未練は強くて、Amazon Vineでは乗車しなくてもレビューができるアイテム(例えばシューズとか)は注文したりしてたし、髪型もバイク前提のものを維持していたし、色々とバイクを想定した生活をしていた。

バイク屋に寄ったのは、そんなバイクへの未練と、ちょっとした時間潰しだったんだけど、そこで運命の出会いになった。

トライアンフ トライデント660。

RX-8のときと違って新車だから、「この時しかない」みたいな感じじゃなかった。 そして障壁はなにひとつとして解決してはいなかった。

けれど私に決断を迫ったのは、「今を逃したら、きっと本当に私は一生バイクに乗らない」ってことだった。

私の命は、そんなには長くない可能性が高い。 こうしてずるずると時が過ぎていったら、バイクに乗らないまま人生を終えるだろうから。

きっと、今なんだ。

トライデント660

MT-09似の「3気筒」「変わった」「スポーツバイク」

トライアンフのトライデント660は、MT-09にひけをとらないくらい説明が難しいタイプのバイク。

まず性能を見ると、660ccの並列3気筒エンジンで、パワーは81ps。 190kgという軽量ボディ。 ……という、性能面を見るとMT-09とかなり似てる。

数値も見てみよう。

MT-09 (2014) Trident660 MT-07 CB650R GSX-8S
エンジン型式 並列3気筒 並列3気筒 並列2気筒 並列4気筒 並列4気筒
排気量 846cc 660cc 688cc 648cc 775cc
最大出力 110ps (81.0kW) 81ps (60kW) 73ps (54kW) 95ps (70kW) 80ps (59kW)
最大トルク 88Nm 64Nm 67Nm 63Nm 76Nm
装備重量 188kg 190kg 184kg 205kg 202kg
ホイールベース 1430mm 1400mm 1400mm 1450mm 1465mm
キャスター角 25.0° 24.6° 24.5° 25.3° 25.0°
トレール量 103.0mm 107.3mm 90mm 101mm 104mm
シート高 815mm 805mm 805mm 810mm 810mm
燃料タンク容量 14L 14L 13L 15L 14L

構成自体も似てるっちゃ似てるけど、ジャンルはちょっと違う。 エンジンの形式は違うけど、ジャンル的にはMT-07と一緒だから数値もそっちに近い。

「構成の似てるMT-09」と「数値の近いMT-07」どっちと比べるかは人によると思う。 私の感覚的には、MT-09みたいな過激なキャラクターより、MT-07のようなマイルドバイク路線だという理解だから、MT-07のほうが実際は近いと思う。

10年より前の話になるけど、スポーツバイクっていうと、レースで使うようなスーパースポーツと、スーパースポーツがベースになってるストリートファイターといった過激組、あとは空気を楽しむ感じのロードスターみたいな感じで、「中庸なスポーツバイク」っていうものが存在しない時代が長かった。 エントリーモデルは本当にエントリーのための大人しくてチープなバイクって感じだったし、その上にあるのはやりすぎバイクしかないみたいな感じ。

そして、スポーツじゃない組としてあったのが、「ネオクラシック」と「ヘリテージ」。 どっちも古いバイクっぽいのを新車で売ってるという意味では一緒なんだけど、ネオクラシックは古いバイクのモチーフを使った現代のバイクで、ヘリテージは古いバイクをそのまんま現代に持ってきたもの、って感じの違いがある。

ここらへんのバイクはテクノロジーも古くして当時を再現してる感じだったから、走りよりもおしゃれ重視みたいなバイクだった。 走行性能を重視する層は「ファッションバイク」と嫌ったりした。

で、現代ではここらへんに多様性が増加していて、例えば大人しいベーシックなロードスターであるMT-07をベースにスポーツバイクとして仕上げたYZF-R7があったりとか、レースに使うほどカリカリじゃないCB650RとCBR650Rがあったりとかいう感じで中庸なスポーツバイクも増えた。 まぁ、スーパースポーツは速くなりすぎた上に先鋭化して「さすがにもう乗れない」みたいな次元になってきちゃってるしね。

つまり、前は懐古主義か性能主義かみたいな話しかなかった感じだったんだけど、現代では「バイクライフの楽しみ方」みたいな観点からラインナップされることが増えてる。 その流れで、ネオクラシックが過去からまんま持ってきたような感じのものじゃなく、「ちょっと古いバイクっぽい雰囲気を持ってるけど、でもどこからどう見ても最新バイク」みたいなものも増えてきた。

例えば、ヤマハは異形な感じのスポーツバイクであるMT-09のバリエーションとして、ちょっと昔ながらのバイクっぽさを持つ形をしたXSR900っていうバイクがあったりする。

トライデント660っていうバイクはそういうタイプのバイクなので、どちらかというとMT-09よりXSR900のほうがもっと「近いバイク」になる。 さらにいえば、MT-07にもクラシックテイストのXSR700っていうのがあって、そっちは本当にライバルなんじゃないかな。

最大のライバル XSR700

「トライアンフの」トライデント

じゃあここからトライアンフ目線。

トライアンフはイギリスのバイクメーカーで、昔は偉大なバイクメーカーのひとつだった。 日本のバイクメーカーが生まれた頃、お手本になってたバイクメーカーのひとつだね。もうひとつはBMWかな。 そんな伝統のバイクメーカーだけど、色々と浮き沈みもあった。

で、トライアンフといえば3気筒エンジン。 なんだけど、もうちょっとちゃんと言うとかなり長年に渡って、「2気筒のモデル」と「3気筒のモデル」の2系統がラインナップされてる。

基本的には2気筒エンジンのモデルはまったり走りたい、雰囲気を味わいたい人向きで、レトロ感があるやつ。3気筒エンジンのモデルはかっ飛ばしたい人向きで、サイバー感あるやつ。例外もあるけど、だいたいそういう方向性だった。

で、トライデント660は3気筒だから、過激寄りのラインナップではあるんだけど、その中ではマイルドな方向。 3気筒のミドル排気量バイクはストリートトリプルっていうのがあるんだけど、ストリートトリプルとトライデントの関係が、ヤマハのMT-09とXSR900の関係に近い感じ。

だから立ち位置としては、ストリートトリプルをマイルドにして、価格も抑えて、乗りやすくして、見た目もオーソドックスなバイクっぽくしたモデルで、エントリーモデルなんだと思う。 なんのエントリーかというと、「初めての大型」「初めてのバイク」「初めてのトライアンフ」あたりかな。

個人的にそれで思い出すのは、サンダーバードスポーツ。 最近までトライアンフは本当に「レトロで味わい深い2気筒」「サイバーで過激な3気筒」っていう明確な棲み分けがあったんだけど、稀にそれに反したバイクも出していた。 そんな「例外的な」バイクとして「3気筒でオーソドックスなバイク」として出ていたのがサンダーバードスポーツ。 クルーザーモデルだった2代目サンダーバードをベースにオーソドックスなロードスターにチェンジしたんだけど、トライアンフのクルーザーモデルというのに対して注目度が低いからといって、ロードスターにすれば人気が出るかと言えばそんなわけはなく、2003年デビュー2006年終了という短命に終わった車種。 人気なさすぎて見たことない。

サンダーバードスポーツ

このサンダーバードスポーツが終わってから、基本的にトライアンフの3気筒ロードバイクはスポーティな方向性だったんだけど、新機軸として初心者にもやさしい3気筒モデルを出してきたってことになる。

これで「あー、要は初心者向けに牙を抜いた退屈バイクね」みたいに捉えるのは、だいぶ間違ってるのかこのモデル。

まず、ストリートトリプルとトライデントの写真を見比べてみてほしい。

ストリートトリプル
トライデント

ストリートトリプルに比べればタンクは前後に長いし、昆虫みたいな顔じゃなくて普通の丸いライトだし、普通のバイクっぽいと思わなくもないんだけど、テールは短くスパッと切られてるし、フェンダーはテールとは別体になっているタイプだったりするし、よーく見ると「普通か……?」だし、最新バイクにレトロっぽい要素を混ぜ込んだ感じで、理解しようとするとちょっと混乱する。 参考までにヘリテージ方向のボンネビルと比べると……

ボンネビル

明らかに現代寄りだよね。

そして、ストリートトリプルは600ccで始まって675ccを経て今や765ccまで大きくなってるけど、トライデントは660ccで一回り小さいエンジン1。パワーもストリートトリプルは120psなのに対して81psだから、初心者向けにマイルドにした、っていう側面も事実ではあるんだけども……

ストリートトリプルはそのエンジンサイズの中で最大限のパワーを出すように作られているから、ブチ回す前提で性能を発揮するようになっている。 逆に言えば低回転で走ってるとその性能を発揮できないから非力、言い方を変えればマイルドになる。

でも「扱いやすく」フラットトルク化されたトライデントの場合、回転数とか関係なくアクセル開ければ爆裂加速ってことになるので、人によってはむしろ過激に感じたりするかもしれない。

さらに、トライデントはオプションでクイックシフターがある。 クイックシフターはクラッチを切らずにギアを変えられる装置。ギアチェンジに伴うコンマ数秒のロスを消すためのレース用の装備で、ただクラッチを握らなくて良くて楽なので、レース用のバイクじゃなくても採用は広がってはいる。 いるけど、ベーシックなバイクにはなかなかつかない装備だし、しかもかなり本格的。

別にストリートトリプルと比べたときに性格が大きく違う構成になっているかというとそんなこともなくて、フロントタイヤ基準で重ねてみると

ストリートトリプルとトライデントを重ねた

ホイールベースはわずか2mm違い、ポジション関係もほとんど一緒で、なんならタンク形状も横から見るとだいたい一緒。 トライデントのほうが少しハンドルが高くて絞りがついていて、ストリートトリプルのほうがステップが後退して高いかな、程度の違いしかない。 こうして見ると「単なる見た目違い」と言われても納得してしまうような感じすらする。

いよいよ立ち位置がわからなくなってきた。 そんな不思議バイク。

多くの人は中途半端なバイク、と興味をそそられないようだけど、トライアンフ的にはかなり力の入ったモデルだと思われる。 というのも、「トライデント」というのは1968年にトライアンフ初の3気筒バイクとして誕生したバイクにつけられた名前であり、一度は消滅しかけていたトライアンフが1990年に再生したときにもトライデントというバイクがラインナップされた。 つまり、トライアンフにとっては新しい時代を告げるエポックメイキングなモデルとして名付けてきたモデルで、一見地味でパッとしないトライデント660にこの名前を与えたのにも意味があるんだと思う。

そして大きなポイントとして、その後に追加された中排気量の「中庸なスポーツバイク」であるデイトナは、120psのストリートトリプル765のエンジンじゃなく、トライデント660のエンジンを搭載して誕生した。

トライアンフの盛衰とトライアンフの「トライデント」

トライアンフは19世紀に創業という歴史あるメーカーで、本当にバイクの草創期から存在したメーカー。

バイクレースの原祖と言っていい、マン島TTレースで活躍して評判を獲得、その後第一次世界大戦では軍用車として使用される形で信頼性の高いバイクとして認められるけれど、大戦後は新型車の開発がうまくいかずに低迷。

1923年に超低価格車のモデルPが誕生して、これがうまくいって持ち直すことになるけど、1929年の世界恐慌で業績が悪化。 1920年から始めた自動車(四輪車)部門が足を引っ張る形で経営危機となって、1936年にバイク部門を切り離して売却する形に。

1938年に並列2気筒のスピードツインを登場させて、これが高性能車として大ヒット。 当時は単気筒が普通で、2気筒というだけでもかなりバリューがあったので、「2気筒エンジンを積んだすごいバイク」ってことだったわけだね。 しかも高性能で安い、ということで大ヒット。 それまで単気筒のモデルとして展開されていたタイガーが、今度はスピードツインの高性能版として登場して、これもヒット。

ここで第二次世界大戦をはさむけど、トライアンフは軍用車生産でむしろ好調。 大戦後はスピードツインをベースにバリエーションを増やしたり発展版を出したりして好評を博していく。 この「メリデン黄金期」に誕生したのがT120ボンネビル。

1960年代はトライアンフの時代。 レースでも活躍しているし、新型車を出せば売れるし、アメリカ進出は大成功だし、「この世の春を謳歌していた」なんて言われてる。

この物語を終わらせたのが日本車。つまり、ホンダの伝説の幕開け。 1968年、ホンダは並列4気筒の「CB750フォア」。量産車初の並列4気筒と、750ccという大排気量はものすごいインパクトがあった。 なにせ当時並列4気筒といったら、最高峰のGPレースを走る車両のテクノロジーであって、公道を走ってる車両であるとすればスペシャルメイドのマシンくらい。つまり、ほとんどの人は存在は知っているし憧れているけど、乗ったことはない言ってみれば「究極のエンジン」。 それが普通に市販されますよとなれば強烈な話題になるのはわかりきった話。

そこからホンダがどんな快進撃を繰り広げるかというのは、それを解説した本とかもいっぱいあるので置いておくとして、実はトライアンフはこの状況を予期していた。 1936年に自動車部門から切り離されたトライアンフを救った立役者がエドワード・ターナー。 彼は新たなるライバルの予感を感じて1960年に来日して、スズキ、ホンダ、ヤマハの工場を視察してる。 当時はまだ日本のバイクは戦後復興の足として使われる小型車ばかり作っていた頃だけど、ターナーは「日本メーカーは超強力なライバルになる」というレポートを上げる。けど、「日本が? 小型車作ってる日本が? そんなばかな」っていう扱いを受けて、このレポートが活かされることなく終わり、ターナーは1967年に引退する。

で、CB750フォアが発表されてから慌ててトライアンフも対抗できるバイクを用意する。 それが、750ccの3気筒エンジンを搭載した「トライデント」。 そう、初めてのトライデントはこのとき誕生し――――そして、CB750フォアにこてんぱんにやられた。 ちなみに、トライデントのBSAでの名前がロケット3(トライアンフはBSAグループだった)。

1967年のTrident T150

トライアンフはもう手に負えない状態だった。 ここまでトライアンフを押し上げてきたBSAグループのサングスターとターナーが去って、残ったトライアンフの経営陣はバイクのことは分からないビジネスマンたち。 彼らは「アメリカ市場が好調だったんだから、アメリカで売ろう!」とするんだけど、アメリカももうホンダが大人気。 さらに、労働者によるストライキが頻発、これにより生産効率と品質が低下して、これまで築き上げた名声も失ってしまう。 そんな中、ターナーは逝去。 トライアンフにとってはこの世の終わり状態。

そんなこんなでイギリスのモーターサイクル産業は壊滅したけど、イギリス政府はこの産業を保護する動きに走る。 これにより、イギリスの3社合同でやっていこうとするんだけど、うまく続かなかった。 アメリカでは日本車が人気すぎて、アメリカのメーカーであるハーレーが危機的状態になってしまい、アメリカ政府はハーレーのために関税による保護を実施。これはトライアンフにとっても打撃になり、これがトドメとなって破綻。 トライアンフの黄金期を支えたメリデン工場が閉鎖に。

こうして1984年にトライアンフは終わってしまうんだけど、すぐに実業家の手で拾われて新生トライアンフが誕生。 したはいいけど、ここで購入したライセンスが「オリジナルに忠実に」生産して良いというライセンスだったので、改良もできず排ガス規制にも対応できずで1988年に終了。

けど、ここからがトライアンフの第二章。 1990年、ヒンクレー工場が稼働開始。日本のバイクメーカーのカワサキの協力を受けて従来とは全然違う、現代的なバイクの生産を始めた。 これまでトライアンフはずっと60年代のバイクの発展でやってきたから、生産が終了した1988年にはだいぶレトロな感じになってたんだよね。

そしてこのヒンクレー第一弾に含まれていたのがトライデント900。 そう、二代目トライデント。

1990年のTrident900

ハイスピードバイクのデイトナは750ccの3気筒、1000ccの4気筒っていうラインナップだったけど、ロードスター的なトライデントは900cc(正確には885cc)の3気筒。 実はトライデントにはカウルつきバージョンもあって、デイトナとの棲み分けがいまいちわからないラインナップになってる。なんなら後にデイトナは900ccの3気筒と1200ccの4気筒になってしまったから、なおさらよくわからない。

トライアンフがトライアンフらしさを獲得するのは、1997年にデイトナT595を誕生させてからで、トライデント900なんて存在自体も微妙だしマイナーだし、バイク乗りでも知っている人はほとんどいないレベル。 トライデント660が誕生したときには「過去にトライデントというバイクがあってね」という話が出たりしているけど、900のことはまず触れられない。

というわけで、トライデント660を含めた3つのトライデントには、こんな共通点がある

  • トライアンフにとって、勝負どころで登場している
  • 3気筒エンジンを搭載
  • 最初から売れなさそうな背景を背負ってる

デイトナ…?

バイクに詳しい人なら、「デイトナがトライデントベースになったんだよ!」って聞いたら、「へー、トライデントって意外とヤるタイプなんだね?」ってなるけど、そうでない人にはさっぱり。 それどころか、ちょっと知ってるくらいの人でも正しく理解するのは難しい。

デイトナっていう名前もちょっと複雑で、最初はT100のレース勝利を記念した特別版として1966年に登場した名前で、モデル名としてデイトナが誕生したのは1990年の新生トライアンフの初期モデルとして。 ここで3気筒のデイトナ750と4気筒のデイトナ1000が登場したんだけど、こちらは日本のカワサキとのコラボバイク。日本メーカーの台頭で経営破綻までいってしまったトライアンフが日本メーカーの力を借りて高性能バイクを作るという、なかなか衝撃的な一台ではあったけれど、マイナーなバイクとして終わった。

デイトナはモデルチェンジして大きくなって900と1200になったあと、「トライアンフ製のデイトナ」として生まれたのが1997年のデイトナ T595(=955i)。955ccの3気筒エンジンのスーパースポーツだけど、他メーカーと違ってあんまり尖りすぎてなくてツーリングにも使いやすい(このあたりはカワサキのZX-9Rと似てた)バランスになっていて、乗りやすいってことで「隠れた名車」になった。排気量は大きいけど、中庸なスポーツバイク枠。

速いけどまったり要素もある955i

このバイクは後継もなくそのまま終了。 2002年にWSSのような600ccのミドルクラスプロダクションレース向けのバイクとして4気筒600ccのデイトナ600が誕生。けれど勝てなかったので、2005年にレースは諦めて650ccに拡大、公道での乗りやすさを向上させた。 ちなみに、デイトナ600には、TT600っていう前身のバイクがあって、ちゃんとミドル4気筒バイクの系譜があった上での話。

4気筒、めっちゃ乗りやすくて楽しい650

そこから、「公道での楽しさを追求した、運動性の高いスーパースポーツ」として2006年に3気筒の675ccのバイクとしてモデルチェンジ。これもレースには出られないバイクだった。 このバイクがめちゃくちゃ評判が良くて、サーキットでも速かったので、そういう流れもって2008年にWSSでは3気筒は675ccまで参戦が認められるようになり、かなり珍しい「レギュレーション後追い」の形でレースに復帰。 2014年にモデルチェンジ。色々な高騰に伴って高価格化する大型スポーツバイク市場だけれども、トライアンフはデイトナの価格を低価格に維持するために大胆にコストカット。マイナーな不具合も潰して完成度を高めた。

良すぎてサーキットでも速かった675

けれどこのバイクも2017年に終了。デイトナの系譜はここで途切れてしまう。 一方で、デイトナ675のエンジンを使ったロードスターモデルのストリートトリプルは継続、デイトナが終了した2017年に765ccの新型になり、この765cc 3気筒エンジンが2019年からレース専用のバイクで競われる世界選手権のMoto2クラスのエンジンとして採用され、ストリートトリプルは「世界選手権Moto2クラスを走るバイクのエンジンを積んだモデル」を名乗るようになった。

そしてこれを記念して765ccエンジンを積んだデイトナMoto2 765が誕生。 これは600以来のWSSみたいなミドルクラスプロダクションレースを意識したものじゃなくて、「公道で乗れるMoto2バイクです」というイメージで売ってたバイク。 このバイクは限定車として売られたもので、お値段もかなり高価。日本では瞬殺だったらしい。

ここまで、時期を追って「モデル名としての」デイトナの変遷をまとめると

  • 半分日本車なスポーツバイク
  • 高性能で中庸な大型スポーツバイク
  • レースのためスーパースポーツ
  • レースの枠を破って公道適正を上げたスーパースポーツ
  • 公道での楽しさにフォーカスしたスーパースポーツ
  • レースで活躍するスーパースポーツ

というふうになっていた。 だから、人によって「レースの枠に縛られない、公道適正の高い高性能スポーツバイク」と「レース向けのスーパースポーツ」でイメージが分かれる。

今はWSSはそもそもレースに参戦するための600ccバイク自体が生産終了になっている流れからレース成立に暗雲が立ち込めている現状で、各メーカーが出している排気量のバイクで出られるようにしてあったりする。で、トライアンフは765ccエンジンで出ていいことになっているから、ストリートトリプルベースでデイトナを作れば、新しいデイトナでのWSSへの参戦が見える。

トライデント660のエンジンは660ccにサイズダウンして、パワーも約40psもダウンしているわけだから、普通に考えればまったり路線で、高性能スポーツバイクにつける名前であるデイトナの復活と考えれば、ストリートトリプルのエンジンを使うのが自然ではある。 デイトナMoto2 765は高価な限定車だったから、これのカタログモデル版でも受け入れられるだろうし、ストリートトリプルが2023にモデルチェンジしてるからこれベースのデイトナが待望されてたという面もある。

けど、実際はトライデント660ベースで、デイトナ660として誕生した。

ストリートトリプルは車体構成も含めて、速く、過激に走るための作りをしているけれど、デイトナ660は車体も含めてトライデント660をベースにしていて、95psまでパワーアップはしているけれど、フラットトルク型の街乗り向き特性はそのまま引き継いでる。

なんでデイトナの話をしてきたのか。 それは、「デイトナがトライデントベースで誕生した」っていうことが次の事実を示唆しているから。

「もしかしてトライデントのエンジンって、まったりどころか、結構パンチがあって速いんじゃない……?」

現在のトライアンフ

デイトナT595が出てからがトライアンフの本番で、そこで人気が出たとは言い難いけれども、それでもそれ以前とはだいぶ話が違った。

デイトナT595は2代目スピードトリプルと兄弟車で、うねうねした2本のアルミチューブによるツインスパーフレームが特徴的だった。

スピードトリプル (2代目)

このスピードトリプルは「元祖ストリートファイター」と呼ばれていて、高性能なスーパースポーツバイクのカウルを取っ払ってアップハンドルにして、ウィリーなんかもしながら楽しむ過激なカスタムをメーカーがやったようなモデルになっていた。 けど、実はスピードトリプルがアップハンドルになっていたのは日本仕様車の話で、欧州仕様や米国仕様ではデイトナと同じセパレートハンドルだったりする。

このスピードトリプルとデイトナは映画ミッション・インポッシブル2に登場。 トム・クルーズ演じる主人公イーサン・ハントがスピードトリプルに、敵役のアンブローズがデイトナに乗っていた。

そういうわけで、このあたりからそこまでメジャーじゃないけど見かけることもあるメーカーになってくる。

その後ミドルクラスのスーパースポーツであるTT600が誕生するけどこっちは空気みたいなもので、重要なのは2001年に登場したボンネビル。

これは2気筒のヘリテージバイクで、言ってみれば1988年まで売ってたT140ボンネビルが復活したようなバイク。 でも、1988年まで売っていたやつは70年代に売っていたバイクをどうにかこうにか売り続けたみたいなバイクだったけど、この復活したボンネビルはちゃんと「古いふうに作った新しいバイク」だった。

ヘリテージバイクを求める層は「古い風のバイク」と「マジで古いバイク」のどちらを好むのかは私はよくわからないけど、少なくとも新車で買えるマジで古いバイク系はメンテナンスとかの意味でも辛いものではあるから、カジュアルに乗れるものじゃないっていうのは間違いない。

こういう路線って昔から色々あるにはあったんだけど、1999年にW650っていうヘリテージ路線のバイクがカワサキから出て、これが結構ウケてたのもあってボンネビルは一気に人気になった。 大型でそういうバイクが他にあんまりなかったしね。

リッタークラスの3気筒のバイクに関しては、ライバルと比べて安価で性能が高くて、年々尖っていくライバルと違ってマイルドということで一定の人気があったんだけど、いまいちヒットせず、デイトナは955iで終了、一緒にラインナップされていたスプリントRSも終了。

スピードトリプルとツアラーのスプリントST、そしてデュアルパーパスモデルのタイガーは1050にサイズアップして継続したんだけど、2気筒ほどは人気が出なかった。 これも外車としては結構安めでコスパがいいとは話題になっていたんだけど、トライアンフはボンネビルの印象が強いメーカーになっていく。

「ボンネビルのトライアンフ」から脱却できたのは、2006年にデイトナ675が出てから。 前身のデイトナ650もかなりコスパのいいバイクだったんだけど、結局あまり知られることもないままだった。 説明が前後してしまうんだけど、955シリーズが終了して1050になるタイミングと675が誕生するタイミングはほとんど一緒で、2005年に1050に切り替わって2006年に切り替わらなかった955モデルが終了、同年に675が誕生ってことになる。

このデイトナ675は普通に人気が出たし、翌2007年の末に出たストリートトリプルも人気が出た。 3気筒っていう物珍しさもあるし、日本のライバルが600ccなのに対して675ccだから排気量のアドバンテージがあって速くて扱いやすいし、しかも安くてお買い得だったからね。

ここから「クラシックな2気筒」と「高性能な3気筒」の2本立てのトライアンフになる。 当初、クラシック路線のバイクも別に高くはなかったんだけど、そっちはバリエーションを増やしつつ高級化して、今では結構高いバイクになってる。

一方、ミドル3気筒に関してはかなり高性能化。 現行モデルだとストリートトリプルRSは765ccで140psというパワーを持っているけど、これはライバルと比べてもかなりインパクトのある数値で、そうとう過激なものになっている。 もちろん、世界選手権であるMotoGPのMoto2クラスにエンジンを供給している、というバックボーンもあるんだけど、こっちは魅力的な性能を持ちながらもコスパがいいという魅力を保ってる。 ストリートトリプルも国産車と遜色ない値段だし、新たに追加された660ccシリーズはさらに低価格。 このあたりはトライアンフにとっても中核となるラインナップということもあって、「魅力的な製品と優れたコストパフォーマンス」というトライアンフの印象は90年代後期から今に至るまで継承されていたりする。

大排気量3気筒はスプリントSTがスプリントGTになった後終了して、タイガーとスピードトリプルだけが残る。 こちらはお買い得なんてことは全くなくて、タイガーはハイテクの塊で最高のツーリングバイクを目指し、スピードトリプルは高性能を突き進んでプレミアム過激バイクの道を歩んでいる。

大きく分ければこんな感じなんだけど、トライアンフはエンジンバリエーションが随分増えてて、3気筒エンジンは660, 765, 1200以外にもタイガー900の900ccエンジンがあるし、2気筒も900と1200の2本立て。 これ以外にロケット3用の2458cc 3気筒エンジンもある。

で、最近新たに仲間に加わったのが「TRシリーズエンジン」という398ccの単気筒エンジン。 「スピード400」「スクランブラー400X」という2つのモデルに搭載されてるんだけど、日本だと普通自動二輪免許で乗れるという関係で、新たなユーザー層を切り開いてる存在だったりする。

このスピード400、一応「モダンクラシック」ラインナップに分類されてるんだけど、ボンネビルみたいなクラシックモデルとトライデントの中間みたいなひと味変わったバイクになっていたりする。

スピード400

「よく見る」ってほどではないんだけど、日本での知名度は着実に上がっていて、世界的にはかなり勢いのあるメーカー。 むしろ勢いで言うのであれば、近年失速気味の日本メーカーなんかよりよっぽどある。

もともと情熱でなんとかしてた印象の強い海外メーカーの中にあって工業製品としてぴっちり作られてる「日本メーカーっぽいメーカー」だったトライアンフだったけど、そういった点もしっかり進歩していて、ボンネビルで培ったのか全体的に質感高くしっかり作られているというのも特長になってる。

心を射抜かれる不思議ちゃん

私が初めて買ったバイクはホンダのスパーダ。 あまりにもかっこ良すぎる見た目に一目惚れしたんだけど、スリムな車体で体にぴったりフィットする感じがものすごく好きだった。

VT250 SPADA

その後ファルコというバイクに乗ったけど、ファルコはコックピットを見て一発で惚れ込んだ。 まるで吸い込まれるみたいに、高揚感に包まれた。それだけでもう夢中になった。

SL1000 FALCO

その後色々乗ったけど、この2台ほど好きになれるバイクはなかった。 ずっと「微妙に夢中になれない」ということに悩まされてた。

バイク復帰したいと思い続けて、けれど踏み切れないという状況だと、当然考えるのが、「どんなバイクだったら復帰したいってなるかなぁ」ということ。

例えば748R。 私にとってはめちゃくちゃ好きだったバイクで、1度だけ乗った748のハンドリングは本当によかった。 748Rはほとんどサーキット専用みたいな過激仕様だけど、あの頃の憧れのバイクっていうのもひとつあるのかなぁと思う。

748R

けど、当然だけど乗るのがすごく大変なバイク。 そんなバイクに乗ってられるかなぁ、乗らなくならないかなぁ、体力持つかなぁって思う。 古いドゥカティなので、維持もすごく大変なはず。実際、苦労してる人の動画もあったりする。

結構真剣に考えたのがG310R。 小さくて軽くて、とても気軽に乗れそうなバイク。ちょっとスパーダに通じるものも感じる。 これなら億劫にならずにいっぱい乗りそう。

G310R

けど、「乗らなくなっちゃわないようにバイクを選ぶ」って意味あるのかな。 それって本当に楽しんでるのかな。バイクに乗るためにバイクに乗るのはなんか違うんじゃないかな。本当にそれでいいのかな、って思う。

あとは、まったり路線のバイクも考えた。 走行性能とかよりも、雰囲気や味わい重視の。ハーレーみたいなやつね。 具体的にはモトグッツィのV7 Stoneっていうバイクだけど

V7 Stone

競技をやる意欲も体力も失った今、バイクに極端な性能を求める必要はないし、社会的にもそういう時代じゃないから、走行性能よりも豊かな楽しさっていうのはひとつあるかなぁとは思ってた。 でも、本当にそれでいいのか微妙に納得できない。自分の中の若い部分が、結局まったり走るだけじゃ楽しくないって思い始めちゃいそう。

もうわかんないよ。 もしかして私もうバイクから心離れてるの?

って悩んだりもしたんだけど、トライデントに出会ってすべてが吹き飛んだ。

ひと目見たときに「あー、ネオクラシック」とおもった。じっくり見ればクラシック要素とっても少ないはずなんだけど、私はレトロな印象を受けた。 で、「かっこいいなぁ」って。

で、ライダー視点で見てみたとき、スパーダと出会ったときみたいな感覚になった。 かなり違うと思うんだけど、タンクの感覚とかかな。

またがると、完璧なフィットだった。 タンクはしっかりえぐってあって、グリップ部分は細く感じる。シートの絞り込みもすごいから、スパーダ並の細いバイクに感じる。 最近のバイクはタンクが短くて、それで容量を稼ぐために前に向かって広がってるのが多いから、ガニ股で乗る感じなんだけど、トライデントはそれがない。 ガニ股タンクは、バイクを倒すときに体を内側に落とすハングオン姿勢だとバイクを抑え込みやすくていいんだけど、公道でそんな大胆にハングオンすることなんて絶対にないから、腰を使ってバイクをコントロールしやすいまっすぐ目の形状のほうが私は好き。

もうちょっと説明しようかな。 バイクに乗る上で脚でバイクを挟み込む「ニーグリップ」は極めて重要なことなんだけど、内股にすること自体が(特に男性にとっては)内転筋を要求されて大変なことだから、タンク自体が広がってる形状になればガニ股に近い形でホールドできるから弱く挟むときは簡単。 けれどガニ股の状態で強く挟み込むのは難しいから、広がり具合は控えめのほうが強くホールドしやすい。 ただ、ハングオン姿勢の場合は太ももをタンクに引っ掛ける感じになるから、強めに広がってる形状じゃないとやりづらい。

見た目には「タンク長い」って見えるけど、タンクに見えるものの前方はただのシュラウドで、フレームの先に被さってる。 だから実際のタンクは短くて、シート前端は意外と前。さらにシート前端を基準にするとステップはだいぶ後方。 この位置だとしっくりこないから、ちょっと後ろに座ることになる。 最近のバイクはライダーをバイクの中心に近づけるために、めいっぱい前に座らせるバイクが多いんだけど、むしろシートの後ろの方に座らせてタンクとの間に空間があるっていうのは、ちょっとクラシックな感じがある。 シートに対する座り方からすればライダーは後ろの方に座っていて、荷重も後ろ寄りのイメージになるけど、実際はタンクが短くて全体が前にあるし、シート後端もそんなに後ろじゃないからそこまでじゃない。真ん中よりは若干後ろ程度。ライダーの感覚上は古いバイクみたいに後ろに乗っているように思えて、実際の位置は現代的なスポーツバイクよりちょっと後ろくらいのバランス。後ろ寄りに乗ったほうがスポーティに走るときは操りやすいので、気軽にスポーティに乗れそう感がある。 シートの前後方向にシッティングポイントの自由度があるの、すごくいいと思う。長く乗ってて下半身しんどいときとかにポジション変えやすいし、普段はそれぞれのライダーの好みのポジションが取れるし。

私は「これ、めっちゃ良さそう」って思ったけど、同時に「売れなさそうなバイクだなー」とも思った。 というのも、日本はバイク人口も少ないけど、バイク乗っている人でもバイクに詳しい人はかなり少なくて、基本的に分かりやすい特徴を持ったバイクが売れる。 速いとか、デカいとか、レトロとか。

で、過去にもバランスの取れたほどよいバイクって色々出たし、それは多くのライダーにとってものすごく好ましいバイクだったはずなんだけど、まぁマジで売れなかったよね。ファルコとか、スプリントRSとか。

トライデントはまず初心者にいい装備と、ストリートトリプルに対して大幅にダウンされた排気量とパワーは「劣化版の安物」みたいに捉えられるし、レトロな感じがあるけどレトロなのが好きな人はもっと分かりやすいレトロなのを選ぶし、Z900RSとかカタナとかホークとかレトロっぽい最新バイクは人気あるけど、ここらへんはモチーフになった昔のバイクのイメージで中高年ライダーに訴えかけてる感じだし。

日本では明確な訴求点のないバイクって売れないんだよね。 「乗りやすい」「使いやすい」「ちょうどいい」とか売れないバイクの定番フレーズって感じ。

ネットチェック

購入前にちゃんと検討するときにやることといえば、ネットチェック!

私は鵜呑みにすることはないけれど、チェックしていくと色々読み取れるもの。

とりあえずトライデント660について調べて思うのは、「圧倒的高評価」。

バイクってだいたい貶しまくる人がいっぱいいるものなんだけど、それも見つからないし、オーナーが感じているデメリットもまぁ別にそういうものだよねくらいで片付けられるもの。 試乗の反応を見ても「なんか、めっちゃいいじゃん……」みたいな反応。

ちょっとわかる。トライデント660って数値情報からは「ここに期待」みたいなポイントが見えてこない、地味ーなバイクに見えるけど、あの反応は「実際乗ったらめっちゃ良くて、特に不満なポイントがないし、実はすごくいいバイクなんじゃない…?」っていう戸惑いの反応だよね。 「ちょうどいい」が刺さったときの。

面白いのが、反対の意見が目立つこと。 例えば、足着きの「いい」「悪い」、ステップが「前のほう」「後ろのほう」、エンジンが「マイルド」「過激」。 でも、それもわかる。 足着きは基準によるし、沈みにくいから体重の影響も大きいだろうし。 ステップが前か後ろかは、乗車位置の前後自由度が高いから、どこに座ってるかによると思う。 エンジンに関しては、フラットトルクだからトルクで押し出される感じに慣れてる人は絶対的なパワーの低さから「そんなでもないな」ってなるだろうし、慣れてない人にとっては低回転でちょっとアクセル開けただけで怒涛の加速になって「こわい」ってなるだろうし。

なんとなく、イメージできてきたね。

Vol.2へ続く

後編の前編になるVol.2はこちら

Fullsized Image