将棋の「袖飛車」のおはなし

#Game

将棋ってなんだ

「まるで将棋だな」

じゃなくて、将棋というのは日本でそこそこ伝統あるボードゲーム。 種別としてはだいたい二人零和有限確定完全情報ゲームというもの。

インドのチャトランガに由来し、日本に伝来したのは6〜7世紀説と10〜11世紀説が有力。 実は、将棋って「由来がいまいちよくわからないゲーム」だったりする。

今一般的に指されている将棋は「日本将棋の本将棋」というもので、日本将棋の本将棋自体は15〜16世紀ころに誕生したと思われている、らしい。 まぁ、現代日本で将棋といったら、特別な説明や文脈がなければこの本将棋のこと。

本将棋は2人のプレイヤーが9x9の81マスの盤をはさんで対面し、互いに20枚の駒を盤上に配置し、交互に指す。 スキップはできない。

盤上の駒は8種類ある。

将棋の初期配置

で、ルールの中心になるのは

  • プレイヤーは交互に駒を動かす
  • 駒ごとにどのように動けるかは決まっている
  • 相手の駒を飛び越えて動かすことはできない
  • 自分の駒に駒を重ねることはできない
  • 自分の駒で相手の駒に重なったとき、相手の駒を盤上から取り、自分の駒台に載せる
  • 駒台にある駒は自分の手番のとき、空いていて、かつその駒が動かせるマスに置くことができる
  • 王 (玉) が取られたら負け
  • 互いの初期配置されている3列を「陣地」とする
  • 相手陣地に侵入した場合、または相手陣地から出た場合に、駒は「成る」ことができる
    • ただし金と王は成ることができない
    • 成ると駒の動きが変わる
    • そのまま動けるなら成らないこともできる
    • 成った状態からもとに戻すことはできない
  • 取られた駒は成った状態を失う

「相手の駒を取って、自分の駒として使える」っていうのがすごく特徴的なところで、このために展開がすごく複雑で、しかもループする可能性もある。 ここがチェスやシャンチーとの大きな違い。だから、似たようなゲームともゲーム性がすごく違う。

将棋のプロとしては、日本将棋連盟に所属する「プロ棋士」が一番一般的。 近年話題の藤井聡太8冠も日本将棋連盟所属。

これとは別に、日本将棋連盟には「女流棋士」という制度もあって、この制度上のプロ棋士(女性だけで構成される)は「女流棋士」と呼ばれてる。 プロなんだけれど、「プロ棋士」とは呼ばない。

で、女流棋士というと日本将棋連盟のものとは別に日本女子プロ将棋協会という組織による女流棋士もある。 こっちの話題は……ちょっとむずかしい話が多いので、ここでは触れないでおく。

将棋の基本的なポイントと進行

将棋で中心的な存在になるのが、「飛車」と「角」という駒。 「飛車」は縦横に何マスでも、「角」は斜めに何マスでも動けるという、本将棋の中ではとても強力な駒で、それぞれ1枚ずつしかない。

この駒をいかに早い段階で動かせるようにして、活躍させていくのか……っていうのが将棋の一番基本のところになる。

なので、1つ前に動かすことができない「歩」のうち、角の斜め前、もしくは飛車の前にあるやつを動かしていくのが一番基本的なスタート。

オーソドックスな始まり方

角は初期状態だとあまり自由に動けないから、角を特殊な位置に置く戦い方は少ないけれど、飛車の横位置を動かす戦い方はある。

その中で、自分から見て真ん中より右側で飛車を使う戦法を「居飛車」、真ん中を含めて左側で使う戦法を「振り飛車」と分ける。 一番端の列で使うことは普通はないから、基本的にはそれ以外の7列のどこかに置くことになる。

飛車の位置にはそれぞれ呼び方があって、右から「居飛車」「袖飛車」「右四間飛車」「中飛車」「四間飛車」「三間飛車」「向かい飛車」と呼ぶ。

不思議に思うかもしれないけど、この「飛車をどこに置くか」っていうのは、指し方の性質に大きく影響を与える。

「右四間飛車」や「中飛車」、「向かい飛車」は非常に攻撃的で、相手を一気に攻め落とすスタイル。 「四間飛車」はバランスが良くて、相手の攻撃を受け止めてカウンターで攻めるスタイル。 「三間飛車」は少しトリッキーで、相手の攻撃をいなして攻め勝つスタイル。

居飛車は居飛車の中に様々なバリエーションがあるけど、基本的にはじっくりしたものが多い。 ただ、居飛車は研究し尽くされているから、どのスタイルでも勉強量が強さに直結したりするんだよね。

四間飛車対居飛車の定石形

金と銀は動ける場所が多めな駒で、これで玉を守る。 だいたい、金2枚、銀1枚で守りを固めて、残る1枚の銀が飛車・角と強力して攻めに回るのが一般的。 桂馬(桂)と香車(香)は盤にあるうちは補助的な役割のことが多い。

袖飛車ってなんだ

袖飛車は飛車を初期位置のひとつ左のラインで使う戦法だけど、ちょっと奇抜というか、かなりマイナーな戦法だったりするの。

まず、将棋は「相手の駒をとって使える」というルールだから、相手の強力な駒である飛車や角は狙っていきたい。 その中で弱点である角の正面や、飛車の斜め前は常に狙いの当たる位置なんだけど、袖飛車はその弱点である飛車の斜め前を自分から開けちゃう。

初手3六歩

これは、知らないと「舐めプ」っぽく見える。

将棋には「奇襲戦法」というのがあって、これは「相手が知ってたら通用しないけど、知らないと一方的な展開にできる」やつのこと。 一見舐めプに見えるけど、実は罠、みたいな戦法もある。

で、それっぽくも見えるんだけど、実は袖飛車って奇襲戦法でもなくて、相手が知らなくても冷静でいられたら別に一方的な攻めが決まるってこともない。 けど、かといって袖飛車を一方的にやっつける方法もない。

最初に飛車の斜め前の歩を動かすと角を出せば飛車が狙えるからそれを狙って動くと飛車を狙いのポジションにセットできる。

飛車を1つ左に。後手の番

隙だらけに見えるけど、角が出ても銀が上がれば隙はない。

銀を上がってガード。後手の番

後手を引いて袖飛車をするときにこの進行だと、実際に角で狙うことができるんだけど、これも実はうまくいかない。 こっちはとても難しいんだけど、最終的には角で狙ったのを諦めることになって無駄になり、袖飛車側が1手得をするってことが多い。

強引に角で狙っても、飛車がこの位置に動くことで抑え込める

つまり、袖飛車を舐めプだと思って無理やり攻め落とそうとすると、それに対する対応はできてるから逆にカウンターが決まる。 袖飛車は奇襲戦法ではないけど、冷静さを欠いた相手には一方的な展開になることもある。

冷静さを欠いた相手に炸裂する袖飛車

この展開は一見まだ続きそうに見えるけど、単に先が長いだけで圧倒的な差がついてしまっているから、あとは一方的な展開しかない。

でも冷静な相手なら、別にこれといった決め手があるわけじゃないから、じっくりした展開になる。 袖飛車にもいくつかパターンがあるけど、いずれにせよ基本的にはバランス型の戦法で、隙のない構えでカウンターを狙っていくか、もしくは全体的に相手を圧迫して相手の指す手を奪っていくかのどっちか。

なんで袖飛車?

袖飛車はマイナー戦法なんだけど、バランスが良くて一方的な展開になりにくい、っていうのがそのポイント。 そして、私の初段復帰の原動力にもなった。

そもそもマイナー戦法というのが良くて、相手は対峙したことはほとんどないけど、私はいっつも指してるからよく知ってる。 時間制限がある中でのプレイだと、これだけでもだいぶ有利。

舐めプだと勘違いしてムキになった相手にはとても強いし、相手の慣れない戦法だから翻弄できることもある。

相手にとっては普段とは違う気の遣い方が必要になるとこもある。 普通なら狙われない、角を動かすために動かした歩が狙われるし、そのせいで角が思うように動かせないってこともある。 それに、1つズレることで角で飛車を狙えなくなって、結構違和感のある戦い方になったりする。

居飛車だと「覚えること」がすごく重要なんだけど、袖飛車は研究が進んでないから覚える要素が少ない。

色々覚えなくて良くて、のびのび指せるので私に合ってる!

でも袖飛車も難しい

とはいえ、袖飛車が万能最強!ってわけじゃない。

袖飛車に組むための手順は数ある戦法の中でもかなり簡単で、分岐も少ない。 けど、冷静な相手に対して袖飛車に組んだ地点は、完全に互角。

でも、バランスをとって抑え込みを狙っている袖飛車側は仕掛ける手がなく、相手からは手が色々ある。 けど、抑え込まれていてカウンターを狙われている以上、相手側も仕掛け方が難しくて、難しい戦いが続く。 地力勝負に持ち込んでいるだけに強い相手だと手も足も出ないなんてこともある。

そもそも袖飛車といっても大きく分けて2つの異なるタイプがあって、バランスよく指して相手を抑え込むように圧迫する方法と、防御を固めつつ変幻自在の動きで撃破する方法。 前者は強力なAIが、後者はプロ棋士編入試験を通過した超強い棋士が使っていて、とても有力な戦法なのは間違いないんだけど、「将棋って難しいなぁ」って思っちゃうよね。

それでも、私はこの戦法をもっと突き詰めるつもり!

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